とじる
寄る辺
言葉、それが芸術か否かはさておき、残すタイミングというものが存在するように思えます。その齢、季節、出会い、別れ、心境変化、それを成熟と呼ぶべきか、はたまた退行なのかはわかりませんが人生のある一定の期間にしか書けないものは間違いなく在ります。その中でとりわけ「遺書」というものは果たして今際の際に書くものなのか、それが然るべきタイミングなのかと悶々としておりました。私の人生はとっくに私の手を離れていて、創作に魅せられたといえば聞こえが良いですが、その大きさ故に輪郭を捉えることすら難しい概念に先導してもらわないと足が先へ進まないのです。遺書を残すには、既に本人の意識が希薄すぎます。ただ、その先導によって刻まれる足跡は紛れもなく人間の足の形をしています。踏んだ本人の意思が靴底の形に反映されないように、私がそれをどういう気持ちで踏もうが人の足跡です。誇れるものが多くない自身の人生に、唯一、他人に何かを与える可能性をもっている楽曲、ひいては詞たち。それをこの「遺書」という場所へ羅列することで、決して少なくはない人数に自分の生き様をいち人間として覚えておいてもらえる気がするのです。
文章◉澤田 空海理
装画◉田雜芳一
Digital Single
コフレ
2022.01.22

作詞作曲・編曲:澤田 空海理

Drums : Genta Shirakawa
Talk : 片桐 from Hakubi
Guitars / Bass / Piano / Trumpet : Sori Sawada
Mixing Engineer : SUI
Mastering Engineer : utako

Model : nogami

コフレ

ほけがそこかしこに浮かんだ。
二年ぶりの光景だ。そんなにか。
もうそんなに経つんだなぁ。
「あったか~い」って文字だけで
なんか買いたくなる話。
なんか、わかるよ。
僕ら、「なんか」ばっかりだ。

コフレが飾った店頭。
余計に灰色に見える線路。
覚えようとしなくても、おぼわるよ。

冬が寒くてよかった、なんて
思ったこともないけど君が歌うんだ。
あやふやな歌詞に誘い笑いが止まらないや。
だから、寒くていいんだ。まちがいないや。

あぁ、その日は祝日だっけ。
おっけー。空けておくよ。

無糖と微糖の間の味がほしいなんて、
よくもまあ、次から次へそんな。
なんか、羨ましいよ。
「あったか~い」って文字だけで
なんか買いたくなる話の続きの続きを。
ううん、楽しいよ。

デコルテの浮いた血管。
お気に入りだね、ミント色マフラー。
覚えようとしなくても、おぼわるよ。

「冬に生まれてよかった」なんて
生まれてもいないくせに君が笑うんだ。
そのあとの真顔に耐えられないんだ。ずるいんだ。
もうさ、なんでもいいや。

炭水化物を抜いたり、
炭酸水で野菜を煮たり、
続いた試しがない試み。
悲喜交々の人生。
僕がもってるものは全部あげるから。
手の内を見せあって死のうぜ。

触れるほどじゃない方言。
不機嫌な時だけつく句読点。
つけすぎのリップマスク。
朝にはとれているナイトキャップ。
コフレが入ったショッパー。
寒風に靡くツイルのマフラー。
覚えようとしなくても、おぼわるよ。
そういう人になりたいんだ。

冬が寒くてよかった、なんて
思ったことはないけど踵が浮くんだ。
この歌もそうなっていけばいいんだ。
君にとってさ。
寒くていいや。悪くないよ。

なんか幸せだって。
僕ら、「なんか」ばっかりだ。
うん、その日は祝日だよね。
うん、空けてあるよ。