とじる
寄る辺
言葉、それが芸術か否かはさておき、残すタイミングというものが存在するように思えます。その齢、季節、出会い、別れ、心境変化、それを成熟と呼ぶべきか、はたまた退行なのかはわかりませんが人生のある一定の期間にしか書けないものは間違いなく在ります。その中でとりわけ「遺書」というものは果たして今際の際に書くものなのか、それが然るべきタイミングなのかと悶々としておりました。私の人生はとっくに私の手を離れていて、創作に魅せられたといえば聞こえが良いですが、その大きさ故に輪郭を捉えることすら難しい概念に先導してもらわないと足が先へ進まないのです。遺書を残すには、既に本人の意識が希薄すぎます。ただ、その先導によって刻まれる足跡は紛れもなく人間の足の形をしています。踏んだ本人の意思が靴底の形に反映されないように、私がそれをどういう気持ちで踏もうが人の足跡です。誇れるものが多くない自身の人生に、唯一、他人に何かを与える可能性をもっている楽曲、ひいては詞たち。それをこの「遺書」という場所へ羅列することで、決して少なくはない人数に自分の生き様をいち人間として覚えておいてもらえる気がするのです。
文章◉澤田 空海理
装画◉田雜芳一
Digital Single
花火から逃げて
2023.06.21
作詞作曲・編曲:澤田 空海理

Guitars/Bass : Sori Sawada
Drums : Genta Shirakawa
Chorus : Nao Tatebe
Mixing Engineer : Takuro Korenaga
Mastering Engineer : utako

MV
演出 : 吉田ハレラマ
背景美術 : 神林裕介
主演 : 中本 優妃乃/朴聖賢
Hair and Makeup : honoka.
Filming Assistant : Arinobu Takita
Costume Coordination : peridot
Cast(Bass) : Takahiro Hirano
Cast(Key) : Mizuki Saito
Cast(Drums) : Kosuke Yoshida
Special Thanks : Shohei Koga (yourness)

花火から逃げて

嗚呼、手を繋いで花火を横に持った。
繋いだ。握り込んだ。右の左手は湿った。
八月の夜みたいに。
手持ち花火みたいに。

「行方知らずの打ち上げ花火が私みたいだ」
と、笑った。

夜を舞った花びら、一つ。
今日を待った言葉を一つ。
花火から遠ざかろう。慣れない下駄で走ろう。
せめて、一言伝わるように。

「じゃあ」手を放した。夏の匂いが去った。
二人は帰路に着いた。逆側の駅を目指した。
今、その袖を掴んで逃げ出してしまおうか。

反対方向、走り出す。あなたの背を追う。
不意に柳が映った。

夜を舞った花びら、一つ。
今日を待った言葉を一つ。
「どうせなら一緒に居よう。朝まで一緒に居よう」
祭りが終わっていく。

私たちは逃げていく。花火から。この夜から。
この、歯がゆい関係から。
背後で最後が鳴った。明くる空と音で分かった。
今は振り向かないように指を絡めて逃げた。

夜を舞った花びら、一つ。
今日を待った言葉を一つ。
花火から遠ざかろう。慣れない下駄で走ろう。
せめて一言。

行く宛てのない夜を走る。
捕まらないようにと走る。
何も意味がなくても、あまりに儚くても、
それは、私の生きる糧になった。