とじる
寄る辺
言葉、それが芸術か否かはさておき、残すタイミングというものが存在するように思えます。その齢、季節、出会い、別れ、心境変化、それを成熟と呼ぶべきか、はたまた退行なのかはわかりませんが人生のある一定の期間にしか書けないものは間違いなく在ります。その中でとりわけ「遺書」というものは果たして今際の際に書くものなのか、それが然るべきタイミングなのかと悶々としておりました。私の人生はとっくに私の手を離れていて、創作に魅せられたといえば聞こえが良いですが、その大きさ故に輪郭を捉えることすら難しい概念に先導してもらわないと足が先へ進まないのです。遺書を残すには、既に本人の意識が希薄すぎます。ただ、その先導によって刻まれる足跡は紛れもなく人間の足の形をしています。踏んだ本人の意思が靴底の形に反映されないように、私がそれをどういう気持ちで踏もうが人の足跡です。誇れるものが多くない自身の人生に、唯一、他人に何かを与える可能性をもっている楽曲、ひいては詞たち。それをこの「遺書」という場所へ羅列することで、決して少なくはない人数に自分の生き様をいち人間として覚えておいてもらえる気がするのです。
文章◉澤田 空海理
装画◉田雜芳一
Digital Single
夜気
2021.3.31

「可笑しい」
作詞作曲・編曲:澤田 空海理
イラスト : ゆの
水彩動画 : 森島花
マスタリング : utako
コーラス : saya
レコーディングアシスタント : whoo

「与太話」
作詞作曲・編曲:澤田 空海理
演出 : 吉田ハレラマ
マスタリング : utako

M1.可笑しい

深夜三時のテンション感で
笑えないのは重症だ。
他の子の話でも、君を繋げるなら
していたいんだ。

していたいんだ。

あのね、一位にしか意味はないんだ。
こと恋愛においてはきっとそうだ。
頑張ったでしょう、私。
二位か、三位かなんてどうでも。
いや、どうでもは言い過ぎたけど。
頑張ったで賞がこの仕打ちですか。

譲るとか、譲らないとか
そういう話じゃないのは
私が一番わかっているのです。

私と君が患っているのは片想いのようなもの。
私と君で違っているのは相談できるか、できないか。
それだけなんだよ。

深夜三時のテンション感。
おかしくないことの方が、もう可笑しい。
それに、愛しい。 
「何を貰ったら嬉しい?」ってなんで私に聞くんだろうか。
私の欲しいものを知ったらどうなるかな。
どうなるんだろうか。

夕方に下がり出す睫毛。
楽しさだけじゃ続かないよね。
君も、身に染みている頃でしょうが。

いっそ付き合っちゃおうなんて
冗談よ。冗談でなんて言わないよ。
背中は押さない。けど、踏み出さないから行って。
言い訳はないな。でも、良いわけがないな。
何でも話してね。私は話さないから。

あのね、順位なんてどうでもいいんだ。
例え君にあっても、私は要らない。
わざわざ知らなくていい。
多分、私じゃない理由がどうとかそこまでいけてすらいないから。
視えていないのが一番つらい。
「身に着けるものは重いよ」
「私のセンスで決めるよ」
頼られたくて言い切る嘘と方便だ。
相手のために勉強するのって
絶対、悪くないから。覚えておいて。

私と君が患っているのは片想いのようなもの。
私と君で違っていたのは相談できるか、できないか。
それだけだったよ。

言わなければ、離れはしない。
得るより、失わない方がいい。 
それでいいよ。それがいいよ。
それがいいな。それでいいや。
勝手にどっかに行ってしまえよ。
ねぇ、優しいね。ね。優しくないね。
なんか可笑しいね

M2.与太話

最近、夜中を歩くのが癖なんだ。
君の歌を書こうと思ったんだ。 
ほつき歩き、思いつきで書き殴った
与太話だよ。聞かなくていいよ。

僕には、これしかないんだ。
歌詞を書く自分だけが自慢で、
それ以外が見るに堪えないんだ。
君が呆れるのも無理はないか。

僕がいなくても平気なら、
僕も無問題でありたかった。
そう言ってやりたかった。
無理なことは今年でわかった。

何にも与えてあげられんかったな。
割に、貰うものが増え過ぎた。
「与えたつもりはない」と君は言う。
そう言いたいのはわかるけど、認めてくれよ。

そうだ、これも話そうと思っていた。
こうなりたいわけじゃなかったんだ。
でも、引き際だとも思ったんだ。
親愛のはずが、情が移ったんだ。
「ありがとう」は小忠実に言っていた。
でも、言われる数は少なかった。
あぁ、言わせてあげられんかったか。
確かにフェアじゃないよな。
なぁ、なかったよな。

変わったことより、変わらなかったことを
大事にはできないか。できないか。
もう変わることを期待していないってさ。
正直、効いたなぁ。ごめんな。ごめんね。

判り合えるなんて思っていない。
でも、解りたい方が勝ったんだ。
これが余計に重くなったよな。
「預ける」と「任せる」は違うよな。
突き放せるわけがなかったんだ。
次の春を望んでいたかった。
消費か、肥やしか、攻撃か。
そう映ったかい。

これは綺麗な歌じゃない。
観賞用にする余裕はない。
僕はこれで楽になっちゃいけない。
正解にしなきゃいけない。
他の誰が聞いてもわからない。
良い曲ではないのかもしれない。
君は聞かないと言った。それでいい。
ただ、僕の人生に君が必要だったこと。
それだけは譲れないんだよ。
僕にとって、君は大切だ。

人生って無駄に長いし、僕は忘れっぽいけど、
そんなこともあったなって言って
笑える日が来るんなら
僕はまだそれを怖がりたい。
言ったことを忘れないでいたい。
言われたことを忘れないでいたい。
そういう人になるよ。
優しい人になりたい。
怒れる人になりたい。  
余裕のある人になりたい。
重くない人になりたい。
繊細な人になりたい。
寄り添える人になりたい。
もういいか。これからの生き方で見せるよ。

何をされたら怒るとか、
何をされたら嫌だとか、
ある程度、わかっていたつもりなんだ。
この物言いも嫌だったよな。
歌にしなくて済むなら、それが良い。
これが嘘に聞こえたら、それでいい。
でも、こうやって生きるしかない、
とは思わない。臍を噛んでいる。 

なんか、こうやって外を歩くとさ。
やけに思い出す一瞬がある。
夜中の、在って無いような信号機。
それを律儀に守る午前二時。
遺骨替わりの歌詞が残ったんだ。
必要以上のいがみ合いとか、
僕らの、在って無いような現在地には
とどめがなくちゃいけないんだよ。

お互い、幸せにやろうぜ。
形はまるで違うだろうけど。
元々、真逆の人間なんだ。
そうだろう。
この人生、経験、価値観や
思想の話、他愛のない話。
言葉にしなきゃわからないことの
全てが僕の幸せだ。

お互い、幸せになろう。

最近、夜中を歩くのが癖なんだ。
もう会うことはないと思ったから
好き放題に書いてきたんだ。
それもようやく終わるみたいだ。
結局、聞いてるじゃないか。