とじる
寄る辺
言葉、それが芸術か否かはさておき、残すタイミングというものが存在するように思えます。その齢、季節、出会い、別れ、心境変化、それを成熟と呼ぶべきか、はたまた退行なのかはわかりませんが人生のある一定の期間にしか書けないものは間違いなく在ります。その中でとりわけ「遺書」というものは果たして今際の際に書くものなのか、それが然るべきタイミングなのかと悶々としておりました。私の人生はとっくに私の手を離れていて、創作に魅せられたといえば聞こえが良いですが、その大きさ故に輪郭を捉えることすら難しい概念に先導してもらわないと足が先へ進まないのです。遺書を残すには、既に本人の意識が希薄すぎます。ただ、その先導によって刻まれる足跡は紛れもなく人間の足の形をしています。踏んだ本人の意思が靴底の形に反映されないように、私がそれをどういう気持ちで踏もうが人の足跡です。誇れるものが多くない自身の人生に、唯一、他人に何かを与える可能性をもっている楽曲、ひいては詞たち。それをこの「遺書」という場所へ羅列することで、決して少なくはない人数に自分の生き様をいち人間として覚えておいてもらえる気がするのです。
文章◉澤田 空海理
装画◉田雜芳一
Digital Single
コフレ
2022.01.22

作詞作曲・編曲:澤田 空海理

Drums : Genta Shirakawa
Talk : 片桐 from Hakubi
Guitars / Bass / Piano / Trumpet : Sori Sawada
Mixing Engineer : SUI
Mastering Engineer : utako

Model : nogami

曖昧に甘い

夜風をドライヤー代わりにしたら、 
待ち時間にベランダで燻らした。
銘柄を変えたら慣れるまで
時間がさ、かかるからさ。
まぁ、良いけど。良くないな。

このまま嘘をつきあって、
なんとなくのままで付き合って、
甘い生活には相応の砂糖が要る。

浮腫んでしまうのは嫌だなぁ。

吸わないのなら火は消して。
不快な煙だけ寄越さないで。
困ったら煙に巻かないで。
逃げないで。そのまま座っておいてよ。

向き合うことと喧嘩はちがくて。
受け流して優劣を決めないで。
肺に入れない吸い方は
言葉の受け取り方とおんなじだね。

内心、馬鹿にしているのは
お互い様。今更で殊更。
大概、君が折れたフリ。
それって、すごく、すっごくさみしいね。

寂しいね。

甘い暮らしになぞらえたような
甘い分別のゴミ出しをしている。
更新されない口癖と、
文面が似通ったまま直らない。

待てど暮らせど消えないな。
偽物の生活みたいだな。
電子タバコの後味のよう。鼻白む。

でも、徐々に馴染んできたから。

話している時間よりも、
話していない時間の方がきっと、
よほど大事なことだよ。
面白い話なんて頼んでないよ。
あなたが何を見て、誰を見て、
何を考えて、何を感じたか。
あなたを作っているもの、
瑣末なことさえ汲み取りたかった。

顔パックはするくせして

野菜は食べない私のこと。
私くらいは大事にしよう。
安全なところに辿り着けるまで。

秋の匂いがしては思い起こして、
代わりに吸うたび、想いを漉す。
あなたの価値は500円になった。
次の値上げで辞めにするよ。
もう、なんで好きかもわかんなくて、
でも、好きだけで十分じゃないですか。
鼻につくバニラの煙が憎い。
忘れる時まで払い続けるよ。

吸わないのなら火は消して。
不快な煙だけ寄越さないで。
あ、でも尽きるのを待っているのは
なんか、私たちみたいでかわいいね。

可哀想だね。

私は私で、あなたはあなたで。
そんな簡単なことが出来なくて。
肺に入れない吸い方も
悪くはないけど、こっちを向いてよ。

最低とか、最高じゃなくって、
曖昧に甘いだけでよかったよ。
含蓄のない話でいい。
そしたら、次はさ。

あぁ、次ね。