とじる
寄る辺
言葉、それが芸術か否かはさておき、残すタイミングというものが存在するように思えます。その齢、季節、出会い、別れ、心境変化、それを成熟と呼ぶべきか、はたまた退行なのかはわかりませんが人生のある一定の期間にしか書けないものは間違いなく在ります。その中でとりわけ「遺書」というものは果たして今際の際に書くものなのか、それが然るべきタイミングなのかと悶々としておりました。私の人生はとっくに私の手を離れていて、創作に魅せられたといえば聞こえが良いですが、その大きさ故に輪郭を捉えることすら難しい概念に先導してもらわないと足が先へ進まないのです。遺書を残すには、既に本人の意識が希薄すぎます。ただ、その先導によって刻まれる足跡は紛れもなく人間の足の形をしています。踏んだ本人の意思が靴底の形に反映されないように、私がそれをどういう気持ちで踏もうが人の足跡です。誇れるものが多くない自身の人生に、唯一、他人に何かを与える可能性をもっている楽曲、ひいては詞たち。それをこの「遺書」という場所へ羅列することで、決して少なくはない人数に自分の生き様をいち人間として覚えておいてもらえる気がするのです。
文章◉澤田 空海理
装画◉田雜芳一
Digital Single
ケーキの残骸
2023.06.21
作詞作曲・編曲:澤田 空海理

Songwriter : Sori Sawada
Arrangement : Sori Sawada
Drums : Genta Shirakawa
Chorus : Nao Tatebe
La la la : WADA TAKEAKI
Yuji Kurokawa (yourness)
Shohei Koga (yourness)
All Other Instruments : Sori Sawada
Mixing Engineer : Takuro Korenaga
Mastering Engineer : utako

MV
演出 : 吉田ハレラマ
主演 : 岩波詩織
Costune Design : yottukyuu
Hair and Makeup : honoka.
Props : Agatsuma
Lighting Designer : Kenichiro Hagiwara (altiplano)

ケーキの残骸

私が愛した偏りへ、心からの愛を込めて送ります。
包丁にこびりついたクリーム。
あぁ、勿体ない。あ、私もいらない。
そう、これ。これに似ている。

あなたが梯子を外した夜。
求められていない気がした、よ。

私が愛した偏りは誰かによって直されていた。
うん、あなたは正常になっていた。つまらなくなっていた。
気取ってんなよ。

らんらんらん、とノンシャランに
生きられるほどずる賢くはなくて。
ゆったりしたまばたき。
もったり舌触りケーキ。ふふ。

サンプルみたいな砂糖菓子。
大抵美味しくないから捨てる。
ヒールはあなたが嫌うから
慎重に足す身⾧。ずれていく波⾧。

年越しの際すらお酒とジュース。酔いと素面。
旺盛と冷静のちゃんぽんは最悪。
食べられず、「 の形に残る不憫なケーキ。
延々と続くツークツワンク。

言葉は刃物。
刃を向けて渡すなと教わらなかったの?
お里が知れますね。あーね。
急に冷めました。じゃあね。

ノンシュガーで事足りるなら 
みんな、それしか飲まなくなる。
奥歯に甘さが届くような
不健康なケーキがいま食べたい。

私が愛した偏りは、誰かによって治されていた。
えぇ。あなたは正常になっていた。
一緒に狂っていてほしかったんだよ。

私が愛した偏りへ。心からの、