文章◉澤田 空海理
装画◉田雜芳一
じょー
君と僕は話が出来ないし、
来た時は不愛想だったし。
でも、なんだか出来の悪い同士
弟みたいだと思ってたよ。
出来の良い姉がいることも
同じだったな。鈍感なところも。
覚えが悪いとこも、食い意地がはってるのも。
意外と寂しがり屋なところも。
虹の橋を渡るっていうけど
渡り切れるか心配です。
僕に似てどんくさいから。
でも、それなら運動は出来るか。
確かに小さくはなったな。でも、変わらないよな。
鼻で鳴くのがかわいかったな。
ああ。意外と、すぐには実感がないんだ。
日に日に解っていくことだろう。
君が居ないこと、居たことの痛みが
使ってたものを通って積まれてゆくのだろう。
車に乗ると、まだ毛が残っている。
紺のシートに白い毛はよく目立つ。
チャカチャカと歩く音がする。
そんな気がする。実感しかないさ。
僕の布団を奪っていくし、
取り返そうとすると怒るし。
秋冬は湯たんぽがわりだった。
もしかして、おまえもそう思ってたのかな。
手向けの花さえも渡してやれなかったから
代わりに歌を作った。
食べ物じゃなくてごめんな。
天国で一緒に聞こうな。
なあ、今日で一年が経ったが流石に渡り切ったか?
僕が先に追いつくかもな。
したら、散歩でもしようか。
歩くのに疲れたら土産話はたくさんあるよ。
これは覚えているための歌だ。
寝しなに口ずさむ。
もう元気な君を思い出す方が難しい。
白く濁る目の方が新しい。
そして、それすら懐かしい。
ほら、こんな簡単に忘れていくから
後ろ向きの歌がひとつ要るんだ。
抜け落ちていくより増しさ。
今日、君が生き返る夢を見た。
気持ちよさそうに寝ていたのに
起こしてごめんな。不安だったんだ。
二度と起きない気がしたんだ。
居るのには慣れるのに、
居ないのには慣れない。
覚えているって、そういうことだ。
なら、忘れたらいいのか。
そうじゃないと思うんだ。
悲しみだって君を思い出す正当なきっかけだ。
こんな平らかで、なだらかな、君のいない日に。
母さんは「手のかかる子だった」と笑った。
父さんは最後の最後で泣いてしまった。
姉ちゃんは片時も君を離れなかった。
愛されていたな。愛させてくれたな。
じゃあ僕からはラブレターみたいなものを。
僕なりの愛は歌になるんだ。
愛してるよ。