とじる
寄る辺
言葉、それが芸術か否かはさておき、残すタイミングというものが存在するように思えます。その齢、季節、出会い、別れ、心境変化、それを成熟と呼ぶべきか、はたまた退行なのかはわかりませんが人生のある一定の期間にしか書けないものは間違いなく在ります。その中でとりわけ「遺書」というものは果たして今際の際に書くものなのか、それが然るべきタイミングなのかと悶々としておりました。私の人生はとっくに私の手を離れていて、創作に魅せられたといえば聞こえが良いですが、その大きさ故に輪郭を捉えることすら難しい概念に先導してもらわないと足が先へ進まないのです。遺書を残すには、既に本人の意識が希薄すぎます。ただ、その先導によって刻まれる足跡は紛れもなく人間の足の形をしています。踏んだ本人の意思が靴底の形に反映されないように、私がそれをどういう気持ちで踏もうが人の足跡です。誇れるものが多くない自身の人生に、唯一、他人に何かを与える可能性をもっている楽曲、ひいては詞たち。それをこの「遺書」という場所へ羅列することで、決して少なくはない人数に自分の生き様をいち人間として覚えておいてもらえる気がするのです。
文章◉澤田 空海理
装画◉田雜芳一
Digital Single
已己巳己
2024.2.14
作詞作曲・編曲:澤田 空海理

「已己巳己」
演出 : 吉田ハレラマ
出演 : イコ = 川島祐樹
   ミキ = 冬由

小道具 : 嶋田愛

作詞作曲 : 澤田 空海理
編曲 : 澤田 空海理

Director : Harerama Yoshida
Starring : Iko = Yuki Kawashima
Miki = Fuyu

Prop : Ai Shimada
Hair&Make-up : honoka.

Songwriter : Sori Sawada
Arrangement : Sori Sawada
Drums : Genta Shirakawa
All Other Instruments : Sori Sawada

Recorded at studio fille (Vo,Gt,Ba)
Mixing Engineer : Hiroshi Ikeda (hmc)
Mastering Engineer : Tsubasa Yamazaki (Flugel Mastering)


已己巳己

結び方ひとつ、解き方ひとつ、
愛し方ひとつが同じだったなら。

同じだったから。

お喋りは得意。頼るのは苦手。
話し合いは減り、小競り合いが増えた。
はじまりは、いつも心から。

放したての手に残んの温度。
話したての話題を再度。
下ろしたての服を長く着ていくように、
僕らは沈着した。

ほんの些細な、無視したささくれが
死に至るほど痛い。

痛い。

感覚が似ていて、甘え方が不自然で、
それに同時に気づくのがあまりに自然で、
はじまりは、いつも口から。

心なんて在りもしないものを
無垢に信じる心は在るのに。
あなたに出会いさえしなければ
こんな惨めな化け物にならずに済んだのに。

なんでこうなったかを
考える時間だけ文字通り、死ぬほどあってさ。
ありがとうね。愛してくれて。
どんな形でも、それだけは伝わっている。

さよならは、心から。

耳に届くものだけが本音じゃない。
耳を傾けるだけじゃ不釣り合い。
あなたとは、こころで話したい。
僕は、そうしたいよ。

結び方ひとつ、解き方ひとつ、
愛し方ひとつが同じだった。
話し済みの話題を何度も、何度も、
脳のしわに刻む。

口にしなくても思った時点で、とか
そんなわけはないでしょう。
言わない聡さを、宿る優しさを
あなたから学ぶ。
あなたが必要でした。

じゃあ、そう言ったら?

そのための心だ。心なんだろう。
そのための口だ。口なんだろう。