とじる
寄る辺
言葉、それが芸術か否かはさておき、残すタイミングというものが存在するように思えます。その齢、季節、出会い、別れ、心境変化、それを成熟と呼ぶべきか、はたまた退行なのかはわかりませんが人生のある一定の期間にしか書けないものは間違いなく在ります。その中でとりわけ「遺書」というものは果たして今際の際に書くものなのか、それが然るべきタイミングなのかと悶々としておりました。私の人生はとっくに私の手を離れていて、創作に魅せられたといえば聞こえが良いですが、その大きさ故に輪郭を捉えることすら難しい概念に先導してもらわないと足が先へ進まないのです。遺書を残すには、既に本人の意識が希薄すぎます。ただ、その先導によって刻まれる足跡は紛れもなく人間の足の形をしています。踏んだ本人の意思が靴底の形に反映されないように、私がそれをどういう気持ちで踏もうが人の足跡です。誇れるものが多くない自身の人生に、唯一、他人に何かを与える可能性をもっている楽曲、ひいては詞たち。それをこの「遺書」という場所へ羅列することで、決して少なくはない人数に自分の生き様をいち人間として覚えておいてもらえる気がするのです。
文章◉澤田 空海理
装画◉田雜芳一
Digital Single
パンプルムース(with 望月起市)
2023.5.10
作詞作曲・編曲:澤田 空海理、望月起市

パンプルムース(with 望月起市)

「酸いも甘いも」の酸いの部分。
苦い。あー、ペッてしたい気分。
私たちの記憶の按分。
二等分じゃない。ね。当然か。
当然か。
覚えていないこと
ふるい憶測だと
貴方のイメージに連れてかれてしまう
躓くなよ
もともと記憶なんてさ、曖昧なものだった。
急いでいないのに忘れてしまうもの。
フォークが見つかんなくて、
じゃあ爪楊枝でいいやって。
あなたから見た私、そんなもんでしたか。
そんなもんか。
消えないはずのあなたへ
その時が来たらね
きっとわかる気がする
いつかふれた筈のあの肌
二人で描いた絵 そっちのけで愛しあったって
私が知らない季節と時間が
どれだけ美しいか 恐らく分からないから
あなたからみた私 言えないさよなら!
悪酔いだったらいいのに。
水としじみが効いたらいいのに。
都合良く飛ばしてくれたら、
それはそれでいいのに。
この街にいたのは
私だけかな?
夢に閉まったこと
映し出せたなら、
それでいいのに。
「酸いも甘いも」の酸いの部分。
苦い。あー、ペッてしたい気分。

「酸いも甘いも」の甘い部分。
光っていて、濁っていて、