文章◉澤田 空海理
装画◉田雜芳一
M1.おたがいさま
はっきり言って君は気分屋だ。
それも、悪い方の。手に負えない方の。
そんな僕は鈍感だ。それも、かなり重度の。
目もあてらんないほどの。
君は不満を言わない。
てか、言われる時には既に遅いか。
疲れたんなら精一杯アピールしてくれ。
僕も察するのは苦手なんだ。
家に帰ったら代わりに洗濯を。
可もなく不可もなくの畳み方を。
見たいテレビも独占していいから。
機嫌なおしてくれよ。
毎日、僕らは小出ししていく。
悪い部分のお披露目会だ。
アイロンが下手だったり、寝起きが悪かったり、
電気はよくつけたままだ。
バカバカしいことで競い合っている。
それでも謝ることはしないさ。
お互い様だと、互いが思ってるんだよ。
持ちつ持たれつの関係。
Day by Day
たまの喧嘩はご愛敬。
そりゃあ何もない方が良いに決まってる。
意地になったら一直線。似たもの同士だ。
今日は僕が折れてみることにしよう。
会話の合間に、会話をするような
よく喋る関係じゃなくてもいい。
せめて、いつでもどちらか片方は
幸せだと思えるように。
頬杖をついて、話を聞いて
君と過ごすありがちな今日は
損得勘定なんかじゃ語れやしないんだよ。
ありふれた恋の形。
忘れた頃に、同じ話を松葉杖をついて聞きたいんだ。
歩幅を合わす努力がしたいんだよ。
一周差で追い付いてもいい。
君は不満を言わないし、僕は察しが悪いまま。
でも、きっとそれでいいんじゃないかな。
正解は一つだけじゃなくていい。
毎日、僕らは小出ししていく。
悪い部分も好きな部分も。
ほんのちょっとの感動が積み重なっていくんだよ。
それは目に見えるほどに。
変わらないことは難しいこと。
変わっていくのも悪くはないさ。
趣味も、好みの髪型も、指輪の位置も、
二人の関係も。
一人のままじゃ、見れない景色。
君以外とじゃ見れない景色。
一つひとつが色を帯びていくんだよ。
それは目を覆うほどに。
くだらない話さえ楽しいのは疑うことなく君のせいだ。
お互い様だと、手を取り合っていくんだよ。
持ちつ持たれつの関係。
Day by Day
M2.水でもやるか
窓際に咲いた秋桜を
眺めて過ごすだけの毎日を。
初心者向けの花だと言って放った
あいつの顔、思い出している。
思い出している。
花のようだった。
ピークは一瞬だった。
見世物にもならない恋だった。
水が足りなかった。
花のようだった。
なんてのは美化し過ぎか。
想い出は勝手に太るから
食べさせておけ。
99.9%、あなたは悪くなかった。
だけど0.1%、いつも一言余計なんだよ。
お互い正々堂々、清々していればいいさ。
差し詰め差し引き0ってとこだ。
あーあ、馬鹿らし
水でもやるか。
仰向けに寝転がったまま
履歴を見返すような休日を。
束縛は緩めがいいって言った
あいつはやけに飲みに出ている。
馬鹿みたいだった。
一方通行だった。
代わりなんていないとほざいていた。
若気が至っていた。
花のようだった。
枯れるために咲いている。
「恋は育てるから育つ」って
それらしいよね。
99%くらい気持ちが此処にあっても
残りの1%分を探すようなものなんだよ。
健気な女も、気丈な男も、もう古いのさ。
幸せになったらプードルを飼おう。
それで勝ちだ。
逼迫していく生活。
それでもいいはずだったんだ。
懶な二人さえ居れば
騙し騙しやっていけるさ。
このまま間違い探しをするように
間違わない方法を探すくらいなら。
99.9%、あなたのせいにしたいよ。でもね。
残りの0.1%、気持ちはここにあんだよ。
あなたは正々堂々、清々していればいいさ。
惚れた方が負けだなんてよく出来てる。
それでもね。
花のようだった。
変わっていく感情は
他人事だなんて思っていた。
他人になるまで気付かなかった。
花のようだった。
なんてのは美化し過ぎだ。
想い出くらい都合良くしよう。
生きているうちに供養しよう。
花のようだった。
水でもやるか。